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EMC対策で電子機器の通信性能を劣化させていませんか?

電子レンジを使用中にBluetoothイヤホンやWi-Fiスピーカーで雑音が入ったり、接続が不安定になったりした経験はありませんか? これは、電子レンジが放出するマイクロ波(電磁波)が無線通信に干渉したためです。このような外部からの電磁波による影響を防ぐため、多くの電子機器はEMC規格に準拠して設計されています。
しかし、EMC対策を施すことで、無線通信性能に影響を及ぼす場合もあります。その結果、製品によって通信性能に差が生じることがあります。

EMC規格とは?

EMCは、Electromagnetic Compatibilityの略で、日本語では「電磁両立性」と言います。電子機器は、自身が発する電磁波が他の機器に影響を与えないこと(放射:エミッション)と、外部から電磁波に耐えて正しく動作すること(耐性:イミュニティ)を両立させることです。その基準がEMC規格です。

EMC対策の製品設計ポイント?

製品を開発する際には、EMCへの対策が必要となり、以下のような工夫が行われます。

  • シールド(遮蔽): 機器内部や外部からの電磁波を遮断するために、金属ケースやシールド材でカバーします。
  • フィルタリング: 電源や信号ラインにフィルタを設置してノイズ(不要な電磁波)を減らします。
  • 回路設計の工夫: 信号線経路を短く、電磁波の影響が少ない部品配置にして基板設計する。また、電気の通り道(グランド)を適切に設計してノイズを抑えます。

特にBluetoothや無線LANなど通信機能を備えた電子機器の場合、高周波部品を使用した電子回路になるため、電磁波が発生しやすく、より高度な対策が求められます。

EMC対策による通信性能への影響

近年では、高い安全性が求められる医療機器や自動車にも無線通信機能が搭載されており、より厳しいEMC基準が要求されるケースが増えています。

しかし、この基準をクリアするために、シールドやフィルタリングなどの対策を過剰に施すと、無線通信の性能が低下する可能性があります。その影響で、通信距離が短くなる、通信速度が遅くなる、あるいは接続が不安定になるなど、製品として必要とする機能が十分に発揮できなくなることがあります。

EMC試験だけでなく通信性能試験も忘れずに

通信機能を備えた電子機器では、EMC対策に注力するあまり、無線通信性能の悪化に気が付かない場合があります。そのため、製品開発の試作・評価段階においては、EMC試験と無線特性試験を並行して実施し、EMC対策の成果と通信性能の両方を確認しながら製品化を進めることが重要です。

また、無線通信性能は使用環境によっても変化する可能性があるため、無線信号の送受信性能と指向性を評価することをお勧めします。アンテナを含めた完成形態で、実環境に近いOTA(Over The Air)状態で評価を行えば、より確実な結果が得られるでしょう。

 

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