ものづくりの知っトク

スマホがない!バブル時代のモバイル通信

公開されてからもう少しで40年になる映画「私をスキーに連れてって」。バブル時代を知りたいならこれ!と思うのは私だけでしょうか。筆者も大学時代は週末になると仲間とスキーに出かけ、ポータブルライトを背負ってまでは滑走していませんが、あの映画に登場する場面のようなアクティビティを楽しんでいました。

1987年ころはスマホどころか携帯電話も普及していない時代。スキー場や車同士でどのように連絡を取っていたと思いますか? 映画でも登場する「こちらJM1〇〇〇、メリットありますか?」のアマチュア無線だったのです!

アマチュア無線とは

アマチュア無線とは国際的に「金銭上の利益のためではなく、専ら個人的に無線技術に興味を持ち、正当に許可された者が行う自己訓練、通信及び技術研究のための無線通信業務」と定められています。

当時は野外活動を楽しむにはピッタリの移動体通信手段で、音質が良くノイズに強いFM変調に対応したデュアルバンドのハンディータイプ無線機が各社から販売され始めていました。それをスキーウェアのポケットに忍ばせて仲間と通信(交信)を楽しみながら、早朝から日暮れまでスキーを楽しんだものです。ゲレンデや車での移動中は主に144 MHz帯で通信し、仲間が直接電波の届かない場所にいるときは、リピーター(中継局)を利用して広範囲で交信できる430 MHz帯を利用していました。

しかし、誰でも無線機を買えば通信(アマチュア無線局を運用)できるわけではなく、無線従事者免許証と無線局免許状が必要です。当時のアマチュア無線技士の免許は、電話級、電信級、第二級、第一級(現在の第4~1級)があり、我々の目的には、入門レベルの電話級で十分だったので、こぞって国家試験を受験し資格を取得、無線局開局の申請をしました。資格により運用できる空中線電力や周波数帯に制限があり、電話級は主に、144 MHz(VHS)帯と430 MHz(UHF)帯、最大出力が10Wで音声通信(電話)ができました。現在の第4級はこの周波数帯で最大20Wまで出力できるなど、運用範囲が少し広がっています。

実は、筆者は最大出力が50Wに拡大される電信級にも挑戦したことがあります。電信とは、いわゆるモールス通信(CW)のことです。長い音と短い音を組み合わせた「ツートツートツーツートツー」、というあれです。当時は、このモールスの実技試験があったため、筆者はあえなく敗退しました。現在では実技が廃止され、合格率も上がっているようです。また、技適マークや無線局免許状のデジタル化により制度面のハードルも下がっていますので、無線に興味のある方は挑戦してみてはいかがでしょうか。スマホとの接し方も変わってくるかもしれません。

電波利用のルールと測定

アマチュアといえども有限な周波数資源(電波)を利用しているので、携帯電話や防災無線などへの干渉を防ぐため、無線機にも周波数の変動や他の周波数帯へ漏れ出す電波の強度などの規格が電波法で厳しく定められています。2005年の新スプリアス規格の導入で電波漏洩に関する基準も強化され、無線機メーカーは規格に適合しているかスペクトルアナライザなどを用いて検査しています。弊社もアマチュア無線機だけでなくIoT機器など電波を発する機器の検査や電波干渉の監視をサポートするさまざまな測定器を提供しています。

ちなみに冒頭に登場した「JM1〇〇〇」はコールサイン(呼出符号)と言って、携帯電話番号のように誰が出している電波なのか識別するための符号ですが、これも電波法により交信の際には必ず名乗る必要があります。携帯電話の普及とともに筆者もアマチュア無線局を閉局し、無線機を持ち歩く人も少なくなりましたが、この映画を観るたびに、ゲレンデでの仲間たちとの楽しかった思い出が蘇ります。