
スペクトラムアナライザのカタログを読むときに<第4弾> プリセレクタ
<参考> 第1弾: 2次高調波歪み はこちら
第2弾: 3次相互変調歪 はこちら
第3弾: ダイナミックレンジ はこちら
スペクトラムアナライザ(以下、スペアナ)を選定するとき、その性能を比較するためにデータシート(Technical Data Sheet)をご覧になることがあると思います。
このデータシートに書かれている項目で、皆さんが比較的難しく感じていると思われる項目についてわかりやすく解説します。
上限周波数が高い(数GHz以上*1)スペアナのデータシートには「プリセレクタ」という仕様があります。
プリセレクタとは、前(プリ:Pre-)にある周波数選択回路(セレクタ:Selector)のことです。
前(Pre-)とは、スペアナの内部構造の先頭部分です。スペアナのRF入力コネクタのすぐ後にあたります。
周波数選択回路(Selector)とは、すなわちバンドパスフィルタです。バンドパスフィルタは必要な周波数の信号だけ通して、その他の周波数の信号は通さない回路です。
このバンドパスフィルタは通過させる周波数を可変でき、スペアナの掃引に合わせてバンドパスフィルタの通過周波数も変化します。
スペアナは、入力したRF信号の周波数を測定しやすい低周波数のIF信号に変換してレベルや周波数を測定します。
RF信号からIF信号へ周波数変換する方式には次の2種類があります。
・基本波ミキサ方式 (数GHz*1まで)
・ハーモニックミキサ方式 (数GHz*1超え)
基本波ミキサ方式には回路自体に周波数の選択能力があります。それゆえ、いろいろな周波数の信号を入力しても問題なく測定できます。
それに対してハーモニックミキサ方式は回路自体に周波数の選択能力がないため、色々な周波数の信号が入ってくると、本来は存在しない偽の信号を表示してしまうことがあります。
そのため、ハーモニックミキサ方式の場合は、回路に入る前で周波数を予め選別しておく必要があります。ここでプリセレクタが必要になります。
例えると、プリセレクタはスペアナにとって交通整理員のようなものです。スペアナに入ってくるたくさんの周波数の信号を捌いて、その時々に必要な周波数の信号だけを通してくれます。
スペアナに設定した周波数に応じてスペアナ自身がどちらの回路を使うか決めて、プリセレクタを自動で制御します。
スペアナを使用するにあたってこれらの回路方式の違いやプリセレクタを意識する必要はありません。
しかし、3点ほどプリセレクタのメリット、デメリットを覚えておいてください。
その1)
プリセレクタは高調波測定の時には非常に役に立ちます。2倍、3倍の高調波を測定するときにプリセレクタが搬送波信号のレベルを落としてくれるので、スペアナ内部で発生する高調波を大きく低減できます。
それゆえ、スペアナの2次高調波規格はプリセレクタが効く周波数になると格段に良くなっています。プリセレクタの下限周波数が低い機種ほど高調波の測定に有利といえます。少しでもプリセレクタを使える範囲を広げようとして範囲を切り換えられる機種もあります。
その2)
反対に、プリセレクタが悪さをする場合もあります。
プリセレクタは可変型のバンドパスフィルタですが、可変できるがゆえに中心周波数が変化するとバンドパスフィルタの通過損失が変化します。周波数特性の規格にこの影響が大きく出ます。
その3)
また、プリセレクタの周波数通過幅に注意してください。スペアナとシグナルアナライザが一体となった機種で信号をサンプリングするとします。
このプリセレクタの周波数通過幅が数十MHzしかない場合には、セルラの5G信号のように周波数幅が100 MHz以上あるとプリセレクタを通ることができません。
このようなデメリットを回避するため、プリセレクタを通さない機能を標準で実装、あるいはオプションが用意されています。
ただし、プリセレクタを通さないと言うことは、測定対象以外に信号がいると本来は存在しない偽の信号の発生原因になるので、
スペアナに入力する前で測定対象の信号だけに制限する必要があります。
スペアナ選定にあたって、プリセレクタで注意することは、
・スプリアス測定など高調波測定をするときはプリセレクタの下限周波数に注目、低い周波数まで伸びているものが良いです。
・シグナルアナライザ機能で数十MHz以上の信号を測定するときは、プリセレクタのバイパス機能があるか確認します。
*1:一般的に3~4 GHz付近の特定周波数で設計されており、メーカー/機種により異なります。
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