スペクトラムアナライザのカタログを読むときに<第7弾> 表示平均雑音レベル
<参考>
第1弾: 2次高調波歪み はこちら
第2弾: 3次相互変調歪 はこちら
第3弾: ダイナミックレンジ はこちら
第4弾: プリセレクタ はこちら
第5弾: 周波数バンド はこちら
第6弾: 検波モード はこちら
スペクトラムアナライザ(以下、スペアナ)を選定する際に、その性能を比較するためにデータシート等をご覧になることがあると思います。
今回は、データシート等に書かれている項目について解説します。
『表示平均雑音レベル』とは:
『表示平均雑音レベル』(以下、DANL*)とは、スペアナの画面下側に表示されるギザギザとした部分です。
画面全体に広がっているレベルで、DANLやノイズフロアと言うこともあります。
*DANL:Display Average Noise Level
DANLについては第3弾の「ダイナミックレンジ」で簡単に触れましたが、今回もう少し詳しく解説します。
このギザギザとした信号はスペアナ内部で発生している微弱な電力=雑音(ノイズ)が画面に現れたものです。
図1でギザギザと幅広く表示されている部分が『雑音』です。
ばらつきを抑えるように『平均』して、画面に『表示』された『レベル』が『表示平均雑音レベル』になります。
このDANLが、スペアナで測定できるレベル範囲の下限になります。
図1:表示平均雑音レベル
DANLが測定に与える影響:
スペアナに入力される信号レベルがDANLより十分大きい場合は、測定に与える影響はほとんどありません。(図2)
しかし、信号レベルが小さくDANLに近いと測定に影響します。(図3)
さらに信号レベルが小さくなってDANLに埋もれてしまうと観測することさえできなくなります。
このように、DANLは「スペアナでどこまで微弱な信号レベルを観測できるか?」という性能を示す重要な指標になります。
一般的に、DANLが低い方が高性能かつ高額なスペアナになります。
DANLをチェックする際の注意:複数のスペアナを比較する場合
DANLをチェックする時にはスペアナの設定条件に注意してください。データシート等でDANLを見るといくつかの設定条件が書かれています。
DANLはスペアナの設定によって値が変化するため、基準となるDANLが適用されるスペアナの設定条件を合わせて記載しています。
図4:データシートのDANLの表記例
違うメーカ/機種/オプションのスペアナのDANLを比較する際に、それぞれ設定条件が異なると単純に比較することができません。
そのため、比較する際には設定条件が同等になるように読み替えてから比較します。
設定条件で重要なのが、検波モード(Detector)・分解能帯域幅(RBW)・内部減衰器(入力アッテネータ)です。
・検波モード(Detector)
検波方式・Detection・Detectorとも言います。一般的にDANLはSampleまたはRMSで規定されています。
他にも検波モードとしては、Positive・Negative・Pos&Negなどあります。
・分解能帯域幅(RBW)
DANLは雑音であり周波数の広がりを持っているため、規定される周波数の幅でレベルが異なります。
図4の例では、スペアナの設定条件にRBWの記載がありません。
しかし性能表記の単位を見ると『dBm/Hz』となっているのでRBWが1 Hzを基準として記載されていることが分かります。
一般的にDANLは1 Hzあたりのレベルとして『dBm/Hz』と表記されていますが、稀に異なるRBWで規定されているケースもあります。
スペアナのDANLを比較する際には『dBm/Hz』に換算すると分かり易いです。
例えば、RBWが300 HzでDANLが-120 dBmと規格されている場合、1 Hzあたりに換算する式は下記になります。
DANL - 10 log (RBW) = -120 - 10 log (300) ≒ -120 - 25 ≒ -145 [dBm/Hz]
・内部減衰器(Attenuator)
内部ATTや入力アッテネータとも言います。内部減衰器の設定値が異なるとDANLも違う値になります。
一般的に、DANLは内部減衰量を0 dBとして規定されています。
仮に内部減衰量が0 dBではない場合、スペアナのDANLを比較する際には換算してください。
DANLは、内部減衰量の設定値を増やすと同じだけ大きくなります。
例えば、内部減衰量が10 dBでDANLが-140 dBm/Hzと規定されていた場合、内部減衰量を0 dBに換算する式は下記になります。
DANL - 内部減衰量 = -140 - 10 = -150 [dBm/Hz](入力アッテネータ 0 dBにて)
DANLをチェックする際の注意:実際に使用する設定条件で性能確認する場合
実際にスペアナを使用する際に、「DANLがデータシートの値と違うな…」と思うことはないでしょうか?
この原因は3つです。
・RBWとVBW
・内部減衰量
・検波モード
実際の測定では、データシートのDANLの設定条件と同じ条件で測定することはまずありません。
例えば、規格では平均効果のためVBWを1 Hzにしていますが、実際の測定でVBWを1 Hzにすることはまずありません。
またRBWも1 Hzで測定することはありません。前述の計算例のとおり、RBWを広くするとDANLも大きくなります。
さらに内部減衰量は、実際の測定ではスペアナの内部回路を保護するため、スペアナに入力される信号レベルに応じて内部減衰量を設定します。
これも前述のとおり、内部減衰量の設定値と同じだけDANLも大きくなります。
最後に検波モードですが、無線設備の送信特性を評価する場合には証明規則等で設定条件が決められており、項目によってPositiveで測定することがあります。
Positiveで測定するとSampleよりもDANLが数dB大きく見えます。
そのため、実際の測定で設定する条件に合わせて換算し、必要性能を満たしているか確認することが重要です。
まとめ:
規格のDANLはスペアナの性能を示すために一定の条件で規定されています。
違うメーカ/機種/オプションのスペアナのDANLを比較する際には、設定条件が同等になるように読み替えてから比較します。
さらに実際に使用する際の設定条件を考慮して、その設定条件に合わせて換算してから必要性能を満たしているか確認することも重要です。
以上
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