スペクトラムアナライザのカタログを読むときに<第9弾> 1 dB利得圧縮 (P1dB)
<参考>
第1弾: 2次高調波歪み はこちら
第2弾: 3次相互変調歪 はこちら
第3弾: ダイナミックレンジ はこちら
第4弾: プリセレクタ はこちら
第5弾: 周波数バンド はこちら
第6弾: 検波モード はこちら
第7弾: 表示平均雑音レベルはこちら
第8弾: 直線性はこちら
スペクトラムアナライザ(以下、スペアナ)を選定する際に、その性能を比較するためにデータシート等をご覧になることがあると思います。
今回は、データシート等に書かれている項目について解説します。
『1 dB利得圧縮』とは:
『1 dB利得圧縮』は、スペアナで測定できる信号レベルの上限を示す性能のひとつです。
単に『P1dB』と省略して表示される場合もあります。
1 dB利得圧縮はスペアナ特有の規格ではなく、一般的にアンプなどの性能を示す指標としても使われています。
そのため『利得』と言う単語が含まれています。
1 dB利得圧縮は、『直線性』と深い関係があります。
直線性は、スペアナのRFコネクタに入力される信号のレベルと、スペアナで測定して画面に表示された信号レベルの関係を示すグラフです。
入力レベルを高くしていくと、スペアナ内部で使用される電子部品の許容電力を超える範囲で、グラフが理想的な直線からズレます。
このズレを定量的に表す指標が『1 dB利得圧縮』になります。
具体的に言うと、実際の特性が理想的な直線から1 dB低下したポイントが1 dB利得圧縮であり、この時の入力レベルで規定します。
図1:1 dB利得圧縮のグラフのイメージ
実際に測定する際の注意:
実際に測定する際には、1 dB利得圧縮になるような入力レベルで使用することはまずありません。
この入力レベルでは信号が『歪む』ということなので正しく測定できません。
一般的には1 dB利得圧縮が発生しないようにそれよりも低い入力レベル(目安:10 dB程度)として使用します。
図2:データシートの1 dB利得圧縮の表記例
1 dB利得圧縮をチェックする際の注意:複数のスペアナを比較する場合
違うメーカ/機種/オプションのスペアナの1 dB利得圧縮を比較する際には、内部減衰器の設定値(以下、内部減衰量)とミキサ入力レベルに注意してください。
図2の表記例では、『ミキサ入力レベル』となっており、内部減衰量は直接的に記載していませんが、間接的に内部減衰量を示しています。
少しスペアナの内部のブロック図に触れます。
『ミキサ』はスペアナ内部にある電子部品で、1 dB利得圧縮のレベルを規定する際に基準となるポイントです。
このミキサ入力レベルを基準として内部減衰器を調整することにより、後段にある各部品で歪が発生しない状態で測定できます。
図3:スペアナ内部ブロック図(入力部略図)
図3のとおりミキサはスペアナ内部にある部品のため、ミキサの入力レベルを直接見ることはできませんが、間接的に下記のように計算できます。
ミキサ入力レベル = 入力レベル [dBm] ー 内部減衰量 [dB]
ここで、内部減衰量を0 dBに設定すると、
ミキサ入力レベル = 入力レベル [dBm]
になります。
まとめ:
図3でお分かりいただけると思いますが、内部減衰量を増やすとミキサ入力レベルが下がります。
つまり高い入力レベルであっても内部減衰量を増やすとミキサ入力レベルを下げて『歪み』が発生しない状態にできますが、その分DANLも高くなるというデメリットがあります。
そのため1 dB利得圧縮を比較する際は、内部減衰量とミキサ入力レベルとDANLを意識して比較してください。
以上
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